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アドラー心理学①:課題の分離

アドラー心理学っていうのはアルフレッド・アドラーが提唱した人間関係に焦点を置いた心理学です。今回はアドラー心理学を理解するうえで重要な考え方である「課題の分離」について解説します。

課題の分離とは?

「課題の分離」とは、「自分の課題と相手の課題を分けて考える」というアドラー心理学の理論の一つです。「課題」というのは、目の前にある問題や、やろうとしている事と言い換えてもいいかもしれません。ある「課題」が誰のものか、というのはその課題の結果を最終的に引き受けるのが誰か、によって決まります。

課題の分離の具体例

例えば、子どもが勉強をしないことでイライラしている親の場合。親が「課題の分離」を用いて考えると、「勉強をしない」は子どもの課題で、「イライラする」は親の課題ということになります。親は「なぜ私はイライラするのか」という自分の問題として向き合う必要があります。

この事例で言うと「なぜ」の考え方が3つあります。1つ目は子どもに言うことを聞かせたいという親の支配欲。2つ目は学歴が良い方が良いという学歴コンプレックス。3つ目は親が言わないと「できない子」というレッテルを貼っている、という考え方です。このように親が自分の内面に向き合い、自分自身の価値観や、自分がなぜそういう感情になるかに向き合うことが重要です。

ではそのうえで子供にどう働きかければよいかというと、勉強するとはどういうことかを教えるのです。未就学児の時から図鑑を見せたり、博物館にいったり、知育玩具で遊んだり、学校で習うであろうことを体験させておくことから始まります。勉強とは知識の詰め込みではなく、身をもって体験をすることで好奇心をくすぐられる行為だということを伝えなければなりません。

小中高校生だとしても、まずは実感しやすい教科から知的好奇心をくすぐる仕掛けを持ちましょう。私の実体験ですが、高校時代赤点ばかり取っていた私が当時の教頭先生に世界史を教えてもらい、暗記ではなく、人間同士の争いのストーリーを覚えることで自然と頭に入ってきた、という経験があります。

課題の分離のメリット

課題の分離をすると、人間関係の問題がわかりやすくなって、自分が何をすべきかが明確になるというメリットがあります。自分のできる事がわかると、それに向けて気持ちを整えやすくなります。

他人の課題を背負わなくて済むので、とても心晴れ晴れとしますね。自分の努力や行動ではどうしようもできないことに対して悩んでいる人が多いように思います。自分の努力や行動でどうにかできることに目を向けましょう。社会が良くなるように、と唱えてデモ行進するのもよいですが、目の前にあるごみを拾うのも大切です。

自己効力感と承認欲求の違い

ここで少し「課題の分離」を使うとわかりやすい自己効力感と承認欲求の違いにも触れておきましょう。自己効力感は自分が人の役に立てている、という実感です。それに対して、承認欲求は他人から褒められること・認められることで、自分が自分自身を認められるようになりたい、と思う気持ちです。つまり承認欲求は課題の分離ができていない欲求ということになります。本来は他人が自分を評価をするということ(他人の課題)と、自分が自分自身を認められると思うこと(自分の課題)は全く別のことだからです。

課題の分離の誤解

「課題の分離」は、「相手の課題には一切干渉せず、自分の課題だけ考えて生きていけばいい」という冷たい考え方に思われがちですが、それは完全に誤解です。私がよく表現するのは「興味を持って干渉しない」ということです。相手の課題に干渉することを「しなければいけない」と自分が思えば、それはあなたの課題になります。ただし、それによってこじれることが多いということを承知のうえで、結果を受け入れる覚悟をもって干渉する決断をすべきです。

課題に介入するとき、あなたは無意識に「相手はできない人だから私が助けてあげる」というヒロイズムに酔いがちです。あなたが大切な人を信じてあげられるように勇気をもって見守ってあげてください。これは、仕事における人材育成でも同じです。新人を「できない人」と見るのではなく「どんどんできるようになっている人」と見るようにして、自分でやらせてみてください。

次回 

アドラー心理学②:目的論

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