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アドラー心理学②:目的論

アドラー心理学は、オーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーによって提唱された心理学の一分野です。前回の「アドラー心理学①:課題の分離」に続き、今回は「目的論」について解説します。


「目的論」は、個人の行動や感情が未来の目標や目的に向かっていると考える理論です。アドラーは、人々が過去の経験に縛られるのではなく、現在の意志が重要だということを説いています。

目的論の基本概念

アドラーの目的論では、すべての行動と一部の感情には目的があるとされています。例えば、ある人が社交的である理由は、他人と良好な関係を築きたいという目的があるからです。また、内向的な人は、他人との関係を避けることで自分を守りたいという目的があるかもしれません。このように、行動の背後には常に何らかの目的が存在します。

実例①:親子げんかと電話

例えば、子どもが宿題をなかなかしないことで、親がひどくイライラしながら子どもを叱っているとします。ところがそこで突然学校の先生から電話がかかってくると、親は急に声をやわらげ「お世話になっております~」とにこやかに電話に応えることができます。ということは、親は本当に怒っていたのではなく、子どもに宿題をやらせる、いうことを聞かせる、という目的を達成する手段として「怒り」という感情を使っていたということができます。

実例②:部下の目的論

次に、職場での人間関係を考えてみましょう。あなたは課長です。あなたの部下はいつも一生懸命に働いています。しかし、だからと言ってチームの全員が会社の利益のために一致団結している、とは限りません。ある人はあなたからの評価を得て昇進したいのかもしれませんし、ある人は定時で上がって趣味を楽しみたいから頑張っているのかもしれません。お客様のことが大好きでその人のために頑張りたいと思っている人もいるでしょう。現代の管理職としては、会社の利益のための一致団結だけを求めるのではなく、こういった個々人の目的論を考慮し、尊重することも大切です。行動の背後にある目的を理解することで、より効果的な育成が可能となります。

実例③:新人の目的論

他にも、例えば新入社員が一生懸命をしないようにあなたには見えることもあるかもしれません。その新入社員の目的は実は、教えてもらうこと、なのかもしれません。自分からバリバリ動くと目にかけてもらえず、教えてもらえないと思っている可能性もあります。


これら目的論は本人たちも自認して「この目的だ」と思って行動しているわけではありません。怒りの感情のように「内なる感情だからしょうがない」や「体調が悪いのだからしょうがない」など、やらない理由、断る理由を作り出し、自分自身にもしょうがないと納得させようとしている、という理論です。

目的論の限界と批判

目的論は多くの場面で有効ですが、すべての行動を説明できるわけではありません。例えば、無意識の行動や衝動的な行動は、必ずしも明確な目的を持っているとは限りません。また、目的論は個人の内面的な動機に焦点を当てるため、環境や社会的要因を軽視することがあります。

目的論の受け止め方

これを読んでいる多くの人が「そういったって悲しいものは悲しいし、どうしようもないときはどうしようもないし、怒っているときは私は本当に怒っているのに」と思うことでしょう。

アドラーは目的論がこの世の真理であるとか、正しいこと、という言い方はせず、議論しましょうと言っています。次の記事では過去にとらわれずに現在の意志が重要ということについて解説することで目的論を受け止められるようになると思います。

次回

アドラー心理学③:三角柱

参考リンク